第70回 日本口腔外科学会総会・学術大会に参加しました
—— 未来の医療に向けて、薬剤耐性(AMR)を考える ——

このたび、福岡で開催された第70回(公社)日本口腔外科学会総会・学術大会(JSOMS 2025)に参加しました。
今年のテーマは Infinity ∞ 原点から未来へ。
口腔外科医療がこれからどのように進んでいくべきか、未来への視点を共有する学会でした。
数多くの演題の中でも、特に心に残ったのが「口腔外科からみた薬剤耐性(AMR)対策と感染予防」に関する講演です。
これは日本歯科専門医機構が定める共通研修項目でもあり、“すべての口腔外科医が向き合うべき課題” として位置づけられています。
目次
薬剤耐性(AMR)とは?
患者さんにも分かりやすく説明すると──
✔ 抗生物質が効きにくくなる現象のことです。
細菌に対して使う抗生物質(抗微生物薬)を
・必要ない状況で使ってしまう
・決められた量や期間を守らない
・自己判断でやめる/残薬を使う
などを繰り返すと、細菌が薬に慣れてしまうことがあります。
その結果、
以前は治せた感染症が治りにくくなってしまう
これが AMR(Antimicrobial Resistance)=薬剤耐性 です。
なぜ交通事故死よりも多い死者数になるのか?
日本では2022年の交通事故死が2,610人。
一方、2023年の薬剤耐性による菌血症による死者数は約9,300人と推計されています。
なぜこれほど差が生まれるのでしょうか?
・高齢化により感染症リスクが上昇
・抗生剤を使う機会が多い
・適切でない抗生剤の使用が一部で続いている
・耐性菌が増えると治療の選択肢が限られる
特に菌血症(血液中で細菌が増える状態)は重篤化しやすく、薬が効かないことで治療が難しくなるケースがあります。
“薬が効かない感染症” は現在、世界的にも大きな課題となっています。
適切な抗生物質の使用ができないのはなぜ?
その背景には、いくつかの理由があります。
✔「念のため抗生剤を出してください」
患者さん側の要望により、不必要な抗生剤が処方されてしまうことがあります。
✔急いで治したいという気持ち
痛み=抗生剤と思われがちですが、実際は「痛みの多くは炎症が原因であり、抗生剤では治らない」ケースも多くあります。
✔過去の治療経験に左右される
「前に効いた薬だから」「家に残っている薬を飲んだ」といった自己判断がAMRを進める要因になります。
患者さんができる「抗生剤を正しく使うための3つのポイント」
抗生剤は、正しく使うことで効果を発揮します。薬剤耐性(AMR)を防ぎ、治療効果を守るために、患者さん自身ができるポイントは次の3つです。
Step1:必要なときだけ、処方された抗生剤を使う
風邪や痛みは抗生剤で改善しないことが多いため、自己判断で薬を求めたり使わないようにしましょう。
Step2:処方された量と期間を守る
途中でやめたり、飲み忘れが続くと、細菌が薬に慣れる原因になります。
Step3:残った抗生剤を再利用しない
以前の処方薬を似た症状で使うと、耐性菌を増やすリスクがあります。
必ず受診して必要かどうかを確認してください。
はじめ歯科医院 中村橋としてできること
当院では、今回の学会で得た知見も踏まえ、次の取り組みを大切にしています。
・必要な場合に限定した抗生剤の使用
・炎症・疼痛に対する適切な診断
・不必要な抗生剤を避けることで、未来の薬の効果を守る
・患者さんへの丁寧な説明と情報提供
・感染予防(うがい・口腔清掃・術後管理)の徹底
口腔外科領域では、外科処置や感染管理が欠かせません。
患者さんの健康を守るため、適切な判断基準のもとで安全な治療を行っています。
FAQ(よくある質問Q&A)
Q1. 薬剤耐性(AMR)とは何ですか?
A. 抗生剤が効きにくくなる現象のことです。細菌が薬に慣れてしまうことで治療が難しくなる場合があります。
Q2. なぜ薬剤耐性の問題が深刻なのですか?
A. 薬が効かない感染症が増えると、治療の選択肢が限られるためです。日本では薬剤耐性による菌血症の死者が交通事故死を上回ると報告されています。
Q3. 抗生剤はいつでも飲んだ方が良いのですか?
A. 状況によって必要ない場合もあります。風邪や痛みだけでは抗生剤が効果を示さないことが多いため、診察で判断します。
Q4. 患者として気をつけることはありますか?
A. 不必要な抗生剤を希望しない、処方された薬は指示通りに飲む、残った薬を自己判断で使わないことが大切です。
Q5. 歯科ではどんな対策をしているのですか?
A. 必要なケースに限定して抗生剤を使用し、感染予防と正しい情報提供を行っています。
院長からの一言
薬剤耐性(AMR)は、私たち医療者だけではなく、社会全体で取り組むべき課題です。
「薬が効かなくなる」という未来を防ぐためには、一人ひとりの行動が大切です。
今回の学会で得た知識を日々の診療に活かし、患者さんにとって安全で信頼できる医療を提供していきたいと考えています。
気になることがあれば、いつでもご相談ください。
練馬区 口腔外科専門医
はじめ歯科医院 中村橋


































