歯の病気は鼻や全身の健康にも関係する?腎臓病と歯科治療の意外なつながり
「歯が痛いから歯医者へ行く」
「歯ぐきが腫れたから歯医者へ行く」
「虫歯や歯周病は、お口の中だけの病気」
そう考えている方は多いのではないでしょうか。
しかし、実際の歯科診療では、歯や歯ぐきだけでなく、鼻や顎の周囲の組織、さらには腎臓など全身の健康状態も考慮することが大切です。
例えば、歯の根の感染が鼻の奥に広がることがあります。また、慢性腎臓病がある方では、歯周病の管理や抜歯、インプラント治療、薬の選択に特別な配慮が必要になる場合があります。
こうした歯科治療と全身の病気との関係について理解を深めるため、はじめ歯科医院 中村橋の院長は、日本有病者歯科医療学会 第16回学術教育セミナーを受講しました。
今回のセミナーでは、
・「歯科領域に隣接する耳鼻咽喉科領域の疾患」
・「歯科診療と腎臓の関わり」
という二つのテーマについて学びました。
患者さんには少し難しい内容ですが、日々の歯科治療に深く関係する大切な知識です。
目次
歯の病気が鼻の病気につながることがある?
歯の病気が鼻の病気につながることもあります
上の奥歯の根は、鼻の横にある「上顎洞」という空洞に近い位置にあります。
そのため、虫歯や歯の根の感染が広がることで、副鼻腔炎(蓄膿症)の一種である「歯性上顎洞炎」を引き起こす場合があります。
また、歯や顎の感染が重症化すると、まれに周囲の組織へ炎症が広がり、専門的な治療が必要になることもあります。
こうした場合、歯科医院では症状や検査結果から状態を判断し、必要に応じて耳鼻咽喉科や脳神経外科などの専門診療科と連携することが重要です。
今回のセミナーでは、病気の進行を見逃さず、適切なタイミングで専門診療科につなぐことの重要性を改めて学びました。
なぜ歯の病気が鼻に影響するの?
上の奥歯の根の先は、「上顎洞(じょうがくどう)」という鼻の横にある空洞と非常に近い位置にあります。
そのため、歯の根の先に感染が起こると、その炎症が上顎洞に広がることがあります。
例えば、
・上の奥歯に深い虫歯がある
・歯の根の先に膿がたまっている
・歯周病が進行している
・過去に治療した歯の根に感染が残っている
といった状態が関係する場合があります。
こんな症状はありませんか?
歯が原因となる副鼻腔炎では、次のような症状がみられることがあります。
・片側の鼻づまりが続く
・黄色や緑色の鼻水が出る
・鼻の奥から嫌な臭いがする
・頬や目の下に痛みや重い感じがある
・上の奥歯に違和感がある
ただし、必ずしも歯が痛くなるとは限りません。
歯の痛みがなくても、歯が原因で鼻の症状が出ている場合があるのです。

歯科医院から耳鼻咽喉科へ紹介することがあるの?
あります。
歯科医院で診察した結果、歯の病気だけでなく、副鼻腔などにも問題が疑われる場合には、耳鼻咽喉科と連携して治療を進めることがあります。
例えば、歯の根の感染が原因となっている場合には、歯科で原因となる歯の治療を行うことが重要です。
一方で、副鼻腔の炎症が強い場合や鼻の症状が続く場合には、耳鼻咽喉科での検査や治療も必要になることがあります。
歯科と耳鼻咽喉科の両方から原因を確認することで、適切な治療につながる場合があるのです。
重い感染症では、さらに専門的な診療が必要になることも
歯や顎の感染症が重症化すると、まれに目の周囲や頭蓋内などへ炎症が広がることがあります。
このような場合には、耳鼻咽喉科だけでなく、口腔顎顔面外科、眼科、脳神経外科など、症状に応じた専門診療科との連携が必要になることがあります。
今回のセミナーでは、歯科領域から周囲の組織へ病気が進行した際に、どのような変化に注意し、いつ専門診療科へ診療を依頼するかという判断の重要性を学びました。
例えば、顔や目の周囲が急激に腫れる、発熱を伴って症状が悪化する、視力に異常が出る、激しい頭痛や意識の変化がみられる場合には、緊急の医療対応が必要です。
大切なのは、歯科医院だけですべての病気を治療することではありません。
歯科で対応できる範囲を見極め、必要な場合には適切な専門診療科へつなぐことも、患者さんを守るための重要な役割なのです。
腎臓の病気と歯科治療には、どんな関係があるの?
今回のセミナーのもう一つのテーマが、「歯科診療と腎臓の関わり」です。
「腎臓が悪いことと、歯の治療に何の関係があるの?」
と思われる方も多いでしょう。
実は、腎臓の働きは歯科治療にも深く関係しています。
そもそも腎臓は何をしている臓器?
腎臓には、血液から老廃物や余分な水分を取り除いて尿として排出する働きがあります。
それだけでなく、
・体内の水分やミネラルのバランスを調整する
・血圧の調整に関わる
・赤血球をつくる働きを助ける
・骨の健康に必要なビタミンDの働きに関わる
・一部の薬を体外へ排出する
といった重要な役割も担っています。
そのため、腎臓の働きが低下すると、全身のさまざまな部分に影響が出ることがあります。
慢性腎臓病(CKD)とは?
慢性腎臓病とは、腎臓の働きの低下や、尿にたんぱく質が出るなどの腎臓の異常が、3か月以上続いている状態をいいます。
英語では「Chronic Kidney Disease」と呼ばれ、略してCKDと表記されます。
慢性腎臓病は初期には自覚症状が少ないこともあり、健康診断などで指摘されて初めて気づく方もいます。
腎臓の働きが低下すると、歯科治療にもさまざまな影響が生じる場合があります。

慢性腎臓病があると、歯周病が悪化しやすいの?
慢性腎臓病と歯周病には、関連があることが知られています。
腎臓の働きが低下した患者さんでは、病状によって免疫機能や唾液の状態などに変化が生じることがあります。
免疫機能への影響
免疫とは、細菌やウイルスなどから体を守る仕組みです。
慢性腎臓病が進行すると、免疫機能に影響が生じ、感染症への抵抗力が低下する場合があります。
そのため、お口の中の感染症にも注意が必要です。
唾液への影響
唾液には、食べ物を飲み込みやすくするだけでなく、お口の汚れを洗い流したり、細菌の増殖を抑えたりする働きがあります。
慢性腎臓病の患者さんでは、病状や服用薬、水分制限などの影響によって、口の乾燥がみられることがあります。
唾液が少なくなると、お口の中の清潔を保ちにくくなる場合があります。
歯周病との関係
歯周病は、歯周病菌を含むプラークと、それに対する体の炎症反応が関係する病気です。
慢性腎臓病がある方では、こうした全身状態の変化なども考慮して、歯周病の予防や管理を行うことが大切です。
ただし、慢性腎臓病の方が必ず歯周病になるという意味ではありません。
病状や口腔清掃状態などによって個人差があります。
腎臓が悪いと、歯を支える骨にも影響するの?
ここも患者さんにはあまり知られていない点だと思います。
腎臓は、カルシウムやリンなど、骨の健康に関わるミネラルの調整にも関係しています。
慢性腎臓病が進行すると、これらのバランスや骨代謝に異常が生じる場合があります。
これをCKD-MBD(慢性腎臓病に伴う骨・ミネラル代謝異常)と呼びます。
難しい言葉ですが、簡単にいえば、
腎臓の働きが低下することで、骨を健康に保つ仕組みにも影響が出ることがある
ということです。
骨の強さや質に問題が生じる場合があるため、抜歯やインプラントなど、顎の骨に関わる治療では注意が必要になります。
腎臓病があると、抜歯やインプラント治療はできないの?
腎臓病があるからといって、必ず抜歯やインプラント治療ができないわけではありません。
重要なのは、腎臓病の進行度や全身状態を確認することです。
例えば、抜歯やインプラント治療を検討する際には、
・腎臓の働きがどの程度保たれているか
・感染症への抵抗力に問題がないか
・骨の状態に影響がないか
・出血しやすい状態ではないか
・透析を受けているか
・どのような薬を服用しているか
などを考慮する必要があります。
場合によっては、腎臓の治療を担当している医師と情報を共有し、治療方針を検討します。
歯科治療の安全性を考えるためには、お口の中だけでなく、全身の健康状態を把握することが大切なのです。
腎臓病の方は、歯科で処方される薬にも注意が必要?
はい。今回のセミナーでも重要なテーマの一つでした。
歯科医院では、抜歯や感染症の治療後などに、
抗菌薬(細菌による感染症に使う薬)や鎮痛薬(痛みを抑える薬)
を処方することがあります。
しかし、薬の種類によっては腎臓から排出されるものがあり、腎機能が低下している患者さんでは、薬が体内に残りやすくなることがあります。
また、一部の痛み止めには、腎臓の血流や働きに影響するものがあります。
そのため、腎臓病がある方では、薬の種類や量、服用する間隔などに配慮が必要になる場合があります。
なお、すべての抗菌薬や鎮痛薬が同じように腎臓へ影響するわけではありません。
薬の選択は、腎機能や服用中の薬などを確認して個別に判断することが重要です。
患者さんも、腎臓病で通院していることや、現在服用している薬を歯科医院へお伝えください。
歯科医院には、持病や服用している薬を伝えた方がいい?
はい。ぜひお伝えください。
歯科医院では、治療前に問診票などで全身の病気や服用している薬について確認します。
「歯の治療なのに、どうして腎臓病や高血圧のことまで聞くの?」
と不思議に思われるかもしれません。
それは、患者さんの健康状態によって、治療方法や使用する薬、治療時に注意すべき点が変わることがあるからです。
特に、慢性腎臓病、糖尿病、心臓病などで通院している方、透析を受けている方、複数の薬を服用している方は、診療時にお知らせください。
お薬手帳をお持ちいただくことも、適切な治療を考えるための大切な情報になります。
はじめ歯科医院 中村橋が大切にしていること
今回受講した日本有病者歯科医療学会の学術教育セミナーでは、歯科に隣接する耳鼻咽喉科領域の病気や、腎臓の働きと歯科治療との関係について学びました。
学会の公式プログラムでも、これらの講演が取り上げられています。
日本有病者歯科医療学会
歯科医師として大切なのは、虫歯や歯周病、インプラントなど、お口の中の治療について知識を深めることだけではありません。
患者さんがどのような持病をお持ちなのか、どのような薬を服用しているのか、そしてお口の症状が全身の健康とどのように関係しているのか。
そうしたことまで考えながら診療することが重要だと考えています。
歯の病気が鼻などの周囲の組織へ影響している場合には、適切な専門診療科との連携が必要になることがあります。
また、慢性腎臓病などの持病がある患者さんでは、抜歯やインプラント治療、薬の処方に際して、全身状態への配慮が必要になる場合があります。
はじめ歯科医院 中村橋では、こうした知識を歯科診療に欠かせないものと考え、学会や研修会への参加を通じて継続的に学ぶことを大切にしています。
患者さんの歯だけを見るのではなく、その方の健康状態や生活背景も理解し、一人ひとりに適した治療を考えること。
それが、患者さんに安心して歯科治療を受けていただくために大切な姿勢だと考えています。
まとめ|歯の健康と全身の健康は、切り離して考えられません
今回のセミナーで学んだ内容は、一見すると歯科治療とは関係が薄いように思えるかもしれません。
しかし、歯の感染が鼻の病気につながることもあれば、腎臓の病気が歯周病の管理や抜歯、インプラント治療、薬の選択に関係することもあります。
大切なのは、歯科治療をお口の中だけの問題として考えないことです。
はじめ歯科医院 中村橋では、今後も歯科医療に関する知識だけでなく、全身の健康と歯科治療との関係についても継続して学び、日々の診療に役立ててまいります。
持病がある方や、服用中のお薬について不安がある方も、診療の際に遠慮なくお伝えください。
よくある質問(FAQ)
Q. 歯の病気が原因で副鼻腔炎になることはありますか?
はい。上の奥歯の根の感染などが上顎洞に広がり、歯性上顎洞炎という副鼻腔炎を起こす場合があります。歯科と耳鼻咽喉科が連携して治療することもあります。
Q. 歯が痛くなくても、歯が原因で鼻の症状が出ることはありますか?
あります。歯性上顎洞炎では、歯の痛みが目立たず、片側の鼻づまりや鼻水、嫌な臭いなどが主な症状になることがあります。
Q. 慢性腎臓病があると歯周病になりやすいのですか?
慢性腎臓病と歯周病には関連があり、腎機能の低下に伴う免疫機能や唾液の変化などが口腔環境に影響する場合があります。ただし、慢性腎臓病があれば必ず歯周病になるわけではありません。
Q. 腎臓病でも抜歯やインプラント治療は受けられますか?
腎臓病があるからといって、必ず治療できないわけではありません。腎機能や骨の状態、服用薬などを確認し、必要に応じて主治医と連携して判断します。
Q. 腎臓病の方は歯科の痛み止めを飲んでも大丈夫ですか?
薬の種類や腎機能によって異なります。一部の鎮痛薬は腎臓に負担をかける可能性があるため、自己判断せず、歯科医師や主治医に相談してください。
Q. 歯科医院には、歯と関係のなさそうな持病も伝える必要がありますか?
はい。全身の病気や服用薬によって、治療方法や薬の選択、治療時の注意点が変わる場合があります。安全に配慮した治療のため、持病や服用薬はできるだけ正確にお伝えください。



































