薬剤耐性のリスクを防ぐ!歯性感染症と抗菌薬の正しい知識
第69回(公社)日本口腔外科学会・学術大会のオンデマンド配信を追加受講しました。
『口腔三学会合同シンポジウム 顎顔面領域の歯性感染症・特異性炎※1』と題した講演を聴講しました。
口腔内に生息する微生物が原因で発症する歯性感染症は、口腔内の清掃状態の悪化、加齢、疲労の蓄積、糖尿病などの全身疾患、さらには治療のために使用される一部の薬剤による免疫力の低下によって重篤化し、生命に関わることがあります。
また、細菌感染症の治療に用いられる抗菌薬の誤った使用により「薬剤耐性(AMR)」が発生し、世界保健機構(WHO)が「公衆衛生と開発を脅かす世界最大級の脅威」※2と警告する「サイレントパンデミック」を引き起こす要因となります。
これにより、感染症による死者数が増加し、医療システムや経済にも深刻な影響を及ぼす可能性が指摘されています。
適切な抗菌薬選択のポイントとしては、
① 原因菌に対して効率よく効果の高い抗菌薬を選択すること
② 炎症の範囲や状態に適した抗菌薬を選択すること
が重要です。
2022年に一般開業歯科医院で行われたある調査では、適切な抗菌薬が使用されていたケースは全体の約20%程度にとどまっていました。
炎症の治療は早期対応が鍵となります。
適切な診断と治療、そして抗菌薬の適切な使用のためには、口腔外科専門医への受診をおすすめします。
※1 顎顔面領域の歯性感染症・特異性炎
「顎顔面領域の歯性感染症・特異性炎」とは、口腔内の細菌感染が原因で、顎や顔の部分に生じる感染症や炎症のことを指します。特に、虫歯や歯周病から細菌が顎の骨や周囲の組織に広がることで、腫れや痛みを引き起こすことがあります。
「特異性炎」とは、特定の病原微生物の感染によって発症する炎症で、顎放線菌症や結核、梅毒、カンジダ症などが含まれます。
これらの感染症は、組織に特有の結節状の肉芽腫性変化を生じることが特徴です。
これらの感染症や炎症は、適切な診断と治療が必要であり、放置すると症状が悪化する可能性があります。
早期に歯科医師や口腔外科専門医に相談することが重要です。
■歯性感染症とは?
歯性感染症とは、口の中にいる細菌が原因で発生する感染症のことを指します。
むし歯や歯周病が進行し、細菌が歯や歯ぐき、顎の骨、さらには全身に広がることで発症します。放置すると、重症化して顔が腫れたり、高熱が出たり、場合によっては命に関わることもあります。
■歯性感染症の主な種類
- 歯周病(歯周炎)
歯ぐきの炎症が進み、顎の骨まで細菌感染が及ぶことがあります。 - 根尖性歯周炎(こんせんせいししゅうえん)
むし歯が進行し、歯の神経(歯髄)が感染し、炎症が歯の根の先や周囲に広がる状態です。 - 顎骨骨髄炎(がっこつこつずいえん)
細菌が顎の骨にまで感染し、骨の炎症を引き起こす病気です。 - 蜂窩織炎(ほうかしきえん)
感染が皮膚や筋肉の深部にまで広がり、顔や首が大きく腫れる病気です。 - 歯性上顎洞炎(しせいじょうがくどうえん)
上の奥歯の感染が鼻の奥にある空洞(上顎洞)に広がり、鼻づまりや痛みを引き起こします。
■なぜ歯性感染症は危険なのか?
軽い炎症のうちは痛みが少なくても、放置すると細菌が血液を介して全身に広がり、敗血症などの重篤な状態を引き起こす可能性があります。
特に、糖尿病や免疫力が低下している人では、感染が進行しやすいため注意が必要です。
■歯性感染症の治療と予防
- 早期の診断・治療
感染が進む前に、むし歯や歯周病の適切な治療を受けることが大切です。 - 口腔外科専門医の受診
重症化した場合、適切な抗菌薬の選択や外科的処置が必要になるため、専門的な診療を行える口腔外科専門医の受診が推奨されます。 - 定期的な歯科検診とクリーニング
予防が最も重要です。定期的な歯科受診で細菌の増殖を防ぎましょう。
■まとめ
歯性感染症は、単なるむし歯や歯ぐきの腫れと思って放置すると、全身の健康に悪影響を及ぼすことがあります。気になる症状があれば、早めに歯科を受診し、重症化する前に適切な治療を受けましょう。
※2 世界保健機構(WHO)が唱える「公衆衛生と開発を脅かす世界最大級の脅威」とは?
WHO(世界保健機構)は、薬剤耐性(AMR: Antimicrobial Resistance)を「公衆衛生と開発を脅かす世界最大級の脅威」と位置づけています。
■薬剤耐性(AMR)とは?
抗生物質や抗菌薬が効かなくなる現象を指します。
細菌やウイルスが薬に対する耐性を持つと、通常の治療が効かず、感染症が治りにくくなり、重症化しやすくなるという問題が発生します。
なぜ問題なのか?
- 感染症の治療が難しくなる
風邪や肺炎などの治療が困難になり、死亡率が上がる。 - 手術やがん治療に影響
術後感染のリスクが増加し、安全な医療が提供しづらくなる。 - 新たな薬の開発が追いつかない
耐性菌の増加により、今ある薬がどんどん効かなくなってしまう。
■WHOの警告
WHOは「2050年には薬剤耐性による死亡者数ががんを上回る」と予測しており、世界的な対策が求められています。
私たちができること
- 不要な抗菌薬を使わない(風邪やウイルス感染には抗菌薬は効かない)
- 医師の指示に従い、処方された抗生物質は最後まで飲み切る
- 手洗いやワクチン接種で感染予防を徹底する
この問題は世界的に重要視されており、医療機関でも適切な抗菌薬の使用が求められています。
練馬区
はじめ歯科医院 中村橋